野鳥が好きなので、「恐竜と鳥の関係」というのは、昔から興味を持ち続けてきたテーマだったからです。
私の子どもの頃は、ドイツで発見された始祖鳥の化石は有名だったものの、鳥は恐竜とは別の爬虫類から進化したという説が有力でした。これは、恐竜では鎖骨が退化消失しており、鎖骨を持つ鳥類が恐竜類から進化したという説が支持されなかったからです。
ところが、近年、獣脚類に鎖骨を持つ恐竜が次々見つかり、中国のゴビ砂漠から羽毛恐竜が非常に多数発見されるに至って、鳥は恐竜の獣脚類から進化したことが明らかになりました。
現在では、細かい系統も解明されつつあり、結論を先に言うと「今も生きている恐竜が鳥類」なのです。
福井県立恐竜博物館では、その恐竜から鳥への進化が目で分かる展示がされていました。
↓羽毛恐竜シノサウロプテリクス(中華竜鳥)の展示
↓オヴィラプトル類の展示
↓アーケオプテリクス(始祖鳥)の展示
下の図をご覧ください。
これまで、現生の脊椎動物は、魚類、両生類、哺乳類、爬虫類、鳥類の五つの綱に分類されてきました。しかし、実は鳥類は恐竜に属するわけですから、本当の分類としては、「爬虫・鳥綱」とするか「鳥は爬虫類のひとつ」とすべきなのです。(事実、2015年のRuggiero et al. の分類体系によると、鳥類は爬虫綱の中の下位分類に鳥亜綱として、綱から亜綱へと階級が下げられています)
それでは、人間中心の分類進化ではなく、鳥類目線で進化系統を解説します。
哺乳類は、はるか昔の古生代の石炭紀に、爬虫類も属する有羊膜類から分岐した単弓類をルーツとし、三畳紀には最初の哺乳類とされるアデロバシレウスが誕生しています。
それに比べると鳥類は新しく、中生代のジュラ紀後期に恐竜の獣脚類の中のマニラプトル類から分岐した、恐竜の進化の最終形です。
つまり、哺乳類は単弓類の後身であるのに対し、鳥類は爬虫類の恐竜から進化したもので、分岐分類学的には鳥は恐竜の一つの枝に過ぎないのです。
<上図の有羊膜類から現生鳥類に至る進化を、一番下に階層分類表を掲げますので参照しながらお読みください>
まず、恐竜(Dinosauria)というのは、爬虫網の双弓類の中の「主竜類」に属する一部の系統です。よく混同されますが、水生の「首長竜」や空を飛ぶ「翼竜」は恐竜ではありません。「翼竜」は恐竜と兄弟系統のいわば近い仲間ですが、「首長竜」は遠い系統で恐竜よりむしろ有鱗類 (現生のトカゲ、ヤモリ、ヘビ類)に近いのです。
恐竜は、大きく「鳥盤類」と「竜盤類」に分かれるとするのが従来の考え方でした。
●「鳥盤類」は、恥骨が後ろを向く鳥のような骨盤を持つ恐竜の仲間で、ほとんどが草食です。剣竜と呼ばれるステゴサウルスや角竜と呼ばれるトリケラトプスが有名です。
●「竜盤類」は、四足歩行の「竜脚類」が主たる構成員です。「竜脚類」は史上最大級のスーパーサウルスやアパトサウルスなどが属する巨大草食恐竜の仲間です。
●「獣脚類」はティラノサウルスに代表される生態系の頂点に君臨した肉食恐竜が多い仲間で、従来は「竜盤類」に属するとされてきました。
ところが、2017年3月に、ケンブリッジ大等のチームの画期的な新説が発表され、「獣脚類」は「鳥盤類」に近い仲間であるとされました。「獣脚類」と「鳥盤類」をまとめる「鳥後脚類(オルニソスケリダ)」という新概念が提唱されたのです。
私はこの獣脚類の新説を支持する者で、恥骨が後ろを向く鳥類の進化の過程が、非常にすっきりしたと考えています。
その「獣脚類」の中で、小型で華奢な体躯で前肢が長い「マニラプトル」(手泥棒という意)という仲間がいます。
マニラプトル類では映画『ジェラシック・パーク』で知能の高い悪役として描かれ脚光を浴びたヴェロキラプトルが有名ですが、鳥類はこのマニラプトル類の中から生まれたと考えられます。マニラプトル類は、多くの種類で何らかの羽毛を持ち、恒温性も有していた可能性が高く、一部には羽毛を利用した簡単な飛行能力も有していました。
鳥類は、このマニラプトル類の中から進化しました。
すなわち、鳥は、爬虫類の中でも亀・蛇・トカゲ類よりずっと恐竜に近く、恐竜を含む「主竜類」の中の「獣脚類」の中の「マニラプトル類」のひとつの群なのです。
表現を変えれば、恐竜は、約1万種の鳥類という形で現在も生存していると言えるでしょう
以下、恐竜から鳥類への進化を中心にして、分岐してきた階層の分類表を示します。(なお、赤は現生の生き物の説明、青は恐竜から鳥類に至る系統の分岐点、緑は日本産のものを表します。)
有羊膜類 Amniota - 石炭紀に両生類から進化し、発生の初期段階に胚が羊膜を持つもの・・・爬虫類や哺乳類を含む
単弓類 Synapsida <哺乳類以外絶滅>
盤竜類 <絶滅> 石炭紀~ベルム紀に棲息したディメトロドンなど
獣弓類 ペルム紀前期に盤竜類から派生進化
獣歯類
キノドン類
哺乳形類 アデロバシレウス -- 三畳紀
哺乳類 現生の獣類
原獣類 卵を産む哺乳類である単孔類(カモノハシなど)
獣形類 胎生の哺乳類
後獣類 腹部に袋を持つ有袋類の仲間でカンガルー、オポッサムなど
真獣類 胎盤を持つクジラから人間まで現生哺乳類の主流
竜弓類 Sauropsida
中竜類 Mesosauria
爬虫綱 Reptilia いわゆる爬虫類
無弓類 Anapsida <絶滅>
双弓類 Diapsida
細脚類 <絶滅>
魚竜類 <絶滅>大型海棲爬虫類(イクチオサウルス、ショニサウルス、ウタツサウルスなど)
竜類 sauria
鱗竜形類
鰭竜類 <絶滅>
偽竜類 (ノトサウルスなど)
首長竜類 水中の生態系で頂点。胎生(エラスモサウルス、プレシオサウルス、フタバスズキリュウなど)
鱗竜類 Lepidosauria
ムカシトカゲ類 (現在もニュージーランドの極小域に生息する原始的な形質を残した爬虫類)
有鱗類 (現在も繁栄する爬虫類で、トカゲ、ヤモリ、イグアナ、ヘビ類、モササウルスなど)
主竜形類 Archosauromorpha
カメ類 (甲羅をもつ爬虫類で現在も世界中に棲息している亀類)
主竜類 Archosauria
クルロタルシ類 <ワニ類以外絶滅>
偽鰐類 <絶滅>
植竜類 <絶滅>
ワニ類 (現生の生物としては鳥類に次いで恐竜に近い。クロコダイル、アリゲーターなど)
鳥頸類 Ornithodira
翼竜類 <絶滅> 初めて空を飛んだ脊椎動物(プテラノドン、ケツァルコアトルス、ヒタチナカリュウなど)
恐竜類 Dinosauria <鳥類以外絶滅> いわゆる恐竜
竜盤類
竜脚類
古竜脚類 中型の草食恐竜(プラテオサウルス、アンキサウルスなど)
新竜脚類 四足歩行の超大型草食恐竜
ディプロドクス類 (ディプロドクス、アパトサウルス、スーパーサウルスなど)
ティタノサウルス類 (ブラキオサウルス、アルゼンチノサウルス、フクイティタン、丹波竜など)
鳥後脚類(オルニソスケリダ)…2017/3に提唱された新分類で、獣脚類を鳥盤類の仲間とする新概念
鳥盤類 <絶滅> 恥骨が後ろを向く骨盤を持つ恐竜の仲間で草食が多い
装盾亜目 背中に剣板や尾にスパイクを持つ剣竜類(ステゴサウルス、アンキロサウルスなど)
角脚類
鳥脚亜目 二足歩行の草食恐竜(イグアノドン、フクイサウルス、コシサウルス、むかわ竜など)
周飾頭亜目 四足歩行の草食で頭部に突起を持つ(トリケラトプス、石頭竜など)
獣脚類 二足歩行の主に肉食の恐竜 <鳥類以外絶滅>
ケラトサウルス類
テタヌラ類
スピノサウルス類 背中に帆のような突起を持つ史上最大クラスの肉食(但し魚食)恐竜
アヴィテロポーダ類
カルノサウルス類 大型肉食恐竜の仲間(アロサウルス、シアッツ、フクイラプトルなど)
コエルロサウルス類 羽毛を持ち始めた恐竜 ティラノサウルス以外は小型が多い
コンプソグナトゥス類 羽毛を持つ小型肉食恐竜で、秒速17.8mで走った
ティラノサウルス類 史上最強と言われる肉食恐竜で羽毛を持つ可能性大。日本では歯が出土
マニラプトル類 長い腕と三本指の手を持つ恐竜で、鳥類など飛翔能力のある種も含む
アルヴァレスサウルス類 羽毛を持つ小型恐竜で走るのが速かった
テリジノサウルス類 かぎ爪を持ち原始的な羽毛を有する恐竜
オヴィラプトル類 羽毛を持ち抱卵する恐竜で、恒温性の可能性が高い
エウマニラプトル類 羽毛恐竜 (トロオドン、ヴェロキラプトル、ミクロラプトルなど)
鳥群 Avialae
始祖鳥 発達した風切羽を持つ鳥類恐竜 -- ジュラ紀後期
孔子鳥 翼に爪を持つ鳥類恐竜で羽ばたいて飛んでいた -- 白亜紀前期
エナンティオルニス類 現生の鳥類の姉妹群で前羽に爪を持つ -- 白亜紀
真鳥類 Ornithurae
ヘスペロルニス クチバシに歯を持つ海鳥で白亜紀末期に絶滅
新鳥類
イクチオルニス 現生鳥類に近い海鳥で白亜紀末期に絶滅
現生鳥類 (Neornithes)
古顎類(ダチョウ、エミュー、キウイなど)
新顎類
キジカモ類(キジ、ニワトリ、ライチョウ、カモ、ガン、ハクチョウなど)
新顎小綱 (Neoaves)・・・・上記以外の新生代以降に分化した多くの鳥類
以上の階層分類表は私が独自に構成したもので、あくまで代表的なグループ・種類を抜粋して書いています。(完全に網羅した系統分類表ではありません)
始祖鳥以前の後期ジュラ紀に、アンキオルニスという羽毛恐竜がいました。また、アウロルニスという鳥的な種も発見されました。これらが直接の鳥の祖先かどうか諸説あり確定するに至っていません。ただ、この時期、鳥に似た恐竜がいろいろ発生し、この中から真の鳥類が出現したのは間違いありません。
↓アンキオルニス想像図
アンキオルニスは高さ30センチほどなのですが、この小型化も鳥への大きな一歩でした。小型化することで、鳥類の特徴が途切れることなく徐々に獲得され、飛翔能力も滑空から完全飛行へと発達したのです。
中生代末に多くの恐竜が絶滅しましたが、鳥類だけは生き延びました。これは、小型化と飛翔能力によるという説を唱える学者もいるのです。
さて、上に述べたように、私が福井県立恐竜博物館に行く直前の、2017年3月23日にネーチャーに画期的な論文が発表されたのです。
それが、ケンブリッジ大等のチームの、「獣脚類」は「鳥盤類」に近い仲間であるとする新説です。ここで「獣脚類」と「鳥盤類」をまとめる「鳥後脚類(オルニソスケリダ)」という新グループ概念が提唱されました。(Nature 543, 7646 を参照してください)
ネットでこれに言及したサイトでは、「恐竜の新しい系統関係の提唱」 と 「ティラノサウルスとステゴサウルスは親戚関係にあった」 が分かりやすくてオススメです。
私は、「獣脚類」が「竜盤類」より「鳥盤類」に近いというこの新説に大きな共感を覚えましたので、系統分類表を新たにまとめたく思い、今日のこのブログ記事を書いたのです。新説が出たのを機会に、頭の中を整理したかったのです。
この新説が学会で全面的に承認されたわけではないですが、有力説であることは間違いなく、私は非常に説得力があると思います。
新説のおかげで、恐竜の鳥類への進化の道筋が、より分かりやすくスッキリしたと考えています。
これまで、恐竜の定義は、「恐竜は、スズメとトリケラトプスの共通祖先と、そのすべての子孫」でした。
しかし、新説によると、スズメ(鳥類)とトリケラトプス(鳥盤類)の共通祖先は、竜盤類を含まなくなるので、竜盤類が恐竜でなくなってしまいます。
そこで現在の、新しい恐竜の定義は、「恐竜は、スズメ(鳥類)とトリケラトプス(鳥盤類)とディプロドクス(竜盤類)の共通祖先と、そのすべての子孫」 となったのです。
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模糊さんがここまで恐竜お宅・博士とは知りませんでした。
鳥達人なのは承知してますから、鳥の始祖への関心は並みではなかったのですね。
「鳥への真価の階層分類表」は、その筋の研究レポートとも覚しきレベルで、ただただ感服。
完全にはとても分らないけど、説得力はあるし、
始祖鳥及びそれへの過程を示す3枚の写真がとっても面白かったです。
飛ぶ鳥を見て想像を膨らませると、生物のロマンにクラッとしますね。
恐竜の面影ありやと始祖鳥をまじまじと見る春のひと日よ
模糊さんが独自に構成された階層分類表を目のくらむ思いで拝見。。私にとっては考えもしていなかった新しい世界で恐竜から鳥類への進化の事や人類への進化の事もっと知りたいと興味深く読ませていただきました。
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模糊さん、さすがに知見が広いですね!恐竜にもこんなにお詳しいとは。でも、確かに生物の進化の歴史って、興味深い面白いテーマですよね。
鳥類が恐竜からというのは、猛禽類の姿形を見ると自然に納得出来ると個人的には思います。可愛い小鳥ちゃんの風貌からはちょっと信じられない気もしますが^^;
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模糊さん、多彩な知識をお持ちだと存じておりましたが、恐竜の進化についての解説が学者のようです。
自分は興味があることでもここまで解説できませんから、感服いたしました。
街中で見るスズメやハトを見る目が変わりそうです。
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