以下、聖バーフ大聖堂の内部は撮影禁止のため、文章が主となり写真は少なくなりますが、ご容赦ください。
過去の長い旅経験から、私には写真がないと旅内容を思い出せないという欠点があります。どうも、私は自分が撮った写真を見直すことで、記憶を更新するようになってしまったようです。
事実、数十年前になりますが、過去にカメラを持たずに旅したケース(中国雲南省)や撮影済フィルムを盗られたケース(ケニア)では、今はその旅自体の記憶がほとんど薄れてしまっています・・・
そこで、今回、写真の撮れない聖バーフ大聖堂内部については、記憶が消えないうちに文章で残しておくことにしました。
いわば私自身が忘れないための思い出の確認・整理という意味合いもあるエントリーです(汗)
↓聖バーフ大聖堂の入口から中を撮影(ここのすぐ前にベルト柵が張ってあり、そこから内部に入ると撮影禁止になります)
ここで、カメラをバッグに仕舞って入場しました。
この正面入口を入って左側すぐのところに、「神秘の子羊」展示室があります。
この展示室は冬季(11~3月)は午前10時30分からの公開ですので、まずは聖バーフ大聖堂内部をざっと見学しました。
そして、10時15分過ぎになると、「神秘の子羊」展示室前に行列ができはじめたので、私もあわててその行列に並びました。
聖バーフ大聖堂自体は入場無料(日祝の午前中はミサのため入場不可)ですが、「神秘の子羊」展示室は有料ですのでチケットを買って入場しました。(2014年末現在4ユーロ)
展示室に入ると正面すぐにフランドル絵画の最高傑作「神秘の子羊」がガラスケースに入れられて展示されています。
右側に音声ガイドコーナーがありますので、そこで「ジャパーニーズ」と言うと、女性係員が手持ち音声ガイドを操作して日本語モードにセットして渡してくれます。
並んだ甲斐があって、一番前列でじっくりと「神秘の子羊」を仰ぎ見ました。
音声ガイドは各パネル順に次々とボタンを押していく方式なので、ゆっくり進めることができ、一時間以上かけて、納得するまで説明を聞きながら絵を鑑賞しました。
↓これは「神秘の子羊」の複製画を私が5年前に撮影したものです。
全体雰囲気は上の写真のような感じですが、間近に本物の「神秘の子羊」をはじめて見ると複製画とは異なっていました。
本物は色あせた感じかと予想していたのですが、実際は非常に色鮮やかで、信じられないくらい緻密に描かれていました。
何度か修復もされてきたようですが、描かれてからの時間の経過を全く感じさせない完成度の高さに感嘆しました。
これが1430年ごろに描かれたとは、、、絶句です。
複製画はこんな細密ではなかった・・・やはり、本物は違います。
この「神秘の子羊」は別名「ゲントの祭壇画」と呼ばれるとおり、聖バーフ大聖堂の前身である洗礼者ヨハネ教会に奉献する巨大な多翼祭壇画として、同教会の教区参事官でゲントの大商人でもあったヨドクス・フィエト(神秘の子羊の裏面下段に描かれている人です)が、画家フーベルト・ファン・エイクに制作依頼したものです。
したがって、洗礼者ヨハネが重要なモチーフとされる構成の祭壇画になっています。
依頼されたフーベルト・ファン・エイクは生前に完成することができず、弟のヤン・ファン・エイクが引き継ぎ、兄の死後6年経って1432年に完成させたものです。(兄と弟のそれぞれの制作部分は諸説あり判明していません)
↓公開許可されているネット上の「神秘の子羊」よりの引用掲載です。(ネット上の絵は実物と色彩等が違いますので、あしからず)
この祭壇画は、板に油彩で描かれたもので、表面だけでも12枚のパネル・14のシーンでで構成されており、裏面にも絵があります。翼を開いた時の幅は5mを越します。歴史的に見ても本格的油絵の世界最初の作品と言えます。ヤン・ファン・エイクは油絵の技法を確立した人です。
私が見た折は、上記のネット写真と同じように、上段左右端のアダムとイブのパネルが修復中で、白黒コピーが貼られていました。
各パネルは順番に修復中で、完全に修復が終わるのは2017年以降になるとのことです。(なお、修復作業は、ゲント・セント・ピータース駅近くのゲント博物館で見学できます)
各パネルの説明をすると、あまりにも長くなるので省略しますが、音声ガイドで詳細な解説があります。
私が音声ガイドの説明を聴き終えて、周囲を見ると、まだ30人ほどの方々が熱心に音声ガイドを耳にしながら、この絵を静かに見ておられました。
皆さん、敬虔な気持ちになるのでしょうか、非常にマナーがよく、誰もしゃべったり騒いだりしません。私は、しばらく、ただ呆然とこの絵を見つめ続けていました。
この巨大な祭壇画は、多翼型で、折りたためるようになっており、裏面にも絵画があります。そこで次は、裏面をゆっくり鑑賞しました。裏面はとても地味ですが、彫刻あるいは浮き彫りと見まがう立体感のある描写の絵でした。
そして、ふと腕時計を見ると昼12時をはるかに回っています。そこで、いったん聖バーフ大聖堂を出て軽い食事をとりに行き、また戻ってきて今度は「神秘の子羊」以外の聖バーフ大聖堂内部を見学することにしました、
↓ネット上の「神秘の子羊」よりマリア様のパネルを拡大
このマリア様の絵画もひときわ上品で、落ち着いた表情で布装されたガードルブックを読んでいます。特に私が気に入ったパネルです。
<「神秘の子羊」感想>
「神秘の子羊」は期待以上の美しさで、徹底的に精密な描写には驚くばかりです。
そしてこの絵画全体に通底するのは「静けさ」です。色彩は豊かですが、なごみの光に満ちた穏やかな絵画世界は、非常に静かでまるで時間が止まっているようです。
この絵画の神学的解釈はいろいろありますが、黙示録に記されている「神秘の子羊」を諸聖人が礼拝するという構図は、全人類の魂の救済をテーマにしているのは間違いありません。
しかし、似たテーマでも、黙示録の激しい審判の幻想世界とは明らかに違います。例えば、おどろおどろしいミケランジェロの「最後の審判」とは雰囲気が正反対なのです。
私個人的には、フランドル絵画ではヤン・ファン・エイクが好きです。
私の好みに合う絵画でもありました。
<余談>
私と同じ旅ライター仲間で、さらにヨーロッパの旅行ガイドもやっている友人のHさんに、ゲントに行くというと、自らの手書きの「神秘の子羊」の説明図面を渡されました。有難いことです。
実際に現物の前で開いて使い、とても役にたちましたので、ちょっとシワがよって見にくくなりましたが、掲載してみます。行かれる方は参考にしてください。
↓「神秘の子羊」の手書き説明図面
昼食を終えて聖バーフ大聖堂内部に戻ってきて、「神秘の子羊」以外の部分もじっくりと見学しました。
高い天井を仰ぐ壮大なゴシック建築、美しいステンドグラス、巨大なパイプオルガン、ルーベンス作「聖バーフの修道院入門」、ワッセンボフ作「キリストの磔刑」、デルボー作「真理の説教壇」、現在の主祭壇、身廊両側に小部屋のように設けられたいくつもの礼拝堂など、どれも国宝級の見事なものでした。
私が特に驚いたのは、主祭壇に向かって左側の礼拝堂横から降りていく地下クリプトです。普通、教会の地下というのは墓室だけというのが多いのですが、聖バーフ大聖堂の下にはとても大きな地下聖堂が広がっていました。そこはまさに、古いロマネスク様式の教会のようで、15~16世紀の貴重なフレスコ画が残っており、教会所蔵の数々の宝物なども展示されていました。(ワッセンボフ作「キリストの磔刑」も地下にあり)
私はカトリックの聖具には詳しくないので「これは何だろう?」というものが多く、説明書きも基本オランダ語なので、ここにも音声ガイドが欲しいなあと思いました。それでも私は納得するまでゆっくり見学したので、この地下クリプトだけでも一時間くらい居たようです(汗)
撮影禁止なので、以上のような、大聖堂内部のさまざまな光景を紹介できないのが残念です。でも写真が撮れないぶん、忘れないよう目に焼き付けておこうと、普段の取材より熱心に見学しました(笑)
聖バーフ大聖堂は、ひとつのテーマに貫かれた博物館のようだなあというのが実感です。最高に見ごたえのある教会でした。
そして、聖バーフ大聖堂の見学を終えて外に出た時は、高緯度にある町ゲントにはもう夕刻の気配が漂っていました。
そこで私は、聖バーフ大聖堂の前にあるファン・エイク兄弟の像を撮影してから、明日か明後日にもう一度ゲントに来ることに決めて、ひとまずブリュッセルの宿に帰ったのでした。
↓聖バーフ大聖堂をバックにファン・エイク兄弟の像を撮影
次回の「フランドル紀行(5)」からは、一般的なゲントの町の紹介となりますが、新年関連記事の後にアップする予定です。
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荘厳な雰囲気が伝わってきて、
思わず息を呑みました。
やはり本物の歴史的な絵画というのは、
迫力があるものですね。
私が5年前に訪れたウィーンでは時間が無くて
大好きなクリムトの作品を観れませんでした。
残念な気持ちです。。。
イスラエルの旅もそうでしたけど、並々ならぬ宗教美術への造詣の深さは、拝見していても勉強になりますし楽しいです。
ゴシックよりはロマネスクの好きな私ですが、バーフ聖堂は1枚目のフォトでも分かりますように、格調高い壮麗さが見事で、好嫌いの次元を超えて魅力がありますね。
メインの祭壇画、その中の「神秘の子羊」ーー私はかなり昔に、ツアーで見たことを今でも記憶しています。祭壇画は5万とあり、結構忘れてしまうものも多いのですが、これは、一度拝観すると、永遠に心に残ります。
但し、若くて深い意味も分からないまま、ただ圧倒され、とりわけ子羊が心に刻まれました。
今、再びその前に佇んでみたい衝動にかられます。
模糊様が魅入られたのも分かりますし、ブログで共有できたことはとても幸せでした。